2019年4月開校。当初は不安視する向きもあったが、蓋を開ければ初年度は慶應義塾横浜初等部に次いで2位となる高倍率の超大人気。慶應義塾幼稚舎、早稲田実業初等学校をも上回ったことになる。初年度入学生の満足度も非常に高いことから更なる評判を呼び、2020年度は後期20倍という驚異的倍率。「私立小学校」にありがちな、歴史、伝統、慣習、しがらみ、無駄といった旧態依然から一切解放され、合理的に論理的に、時代の要請を具現化しようとしている大変な注目校だ。
♪日本の学生への憂いから
校長先生は農大大学教授、世界の第一線で活躍する研究者でもある。その中で、農大だけではなく、日本の学生たちの学力低下、コミュニケーション力不足、英語力不足、発信力のなさ、そもそも発信するものがない、という学生たちの窮状を強く危惧されていた。科学する力、科学の考え方も弱い。日本の学生が世界で活躍するためには、学力、英語力、コミュニケーション力、発信力、そして意欲、将来に向かう意欲が欲しい。しかし、それは大学生になってからでは遅い。もっと小さいときから養わなくてはならない。そういった中で生まれたのが稲花小学校だ。
♪農大の資源活用
都心の便利な立地で東京農業大学と隣接し、偏差値の高い農大一中、一高への進学も可能(全員ではない)。農大の農場が全国にある。演習林もある。博物館もある。キャンパスの中には様々な研究室、研究設備がある。また、大学が誇る人的資源、様々な専門家、教授、職員、そのほかに15万人の卒業生がおり、いろいろな研究機関、食品会社、製薬会社、あるいは環境にかかわる仕事などで活躍している。これらの施設と内外の人脈、これはまさに教育資源、これを稲花小学校ではフルに活用できる。在校生の評価として、一日が非常に濃密で充実しているとのことである。
♪特色~週5日の英語と7時間授業~
・英語
英語は、1年生から毎日、45分行う。36名のクラスを2つに分け18人ずつ。この18人に1人、ネイティブの先生、イギリスの先生とオーストラリアの先生がついて授業が行われる。英語が初めからとても上手な子どももいる一方、全く初めての子どももクラスに2~3人はいる。ただ、英語というのは、上手いからと油断していたらすぐに追いつかれてしまう。初めての子どもは興味を持ってどんどん進むので、身につく、伸びる率が高いとのお話だ。先生は「Grape SEED」という英語のプログラムを教える専門家で、落ちこぼしなく教える。休み時間、給食、校外学習など一日常駐し、子どもたちは自然と英語を使う環境が整っている。
・7時間授業
1日最大7時限。これは、詰め込むことではなく、時間をかけた丁寧な授業を行って、子どもたちに学力をじっくりしっかりつけるためだという。英語をやったり、いろいろな体験学習をしたり、あるいは1年生から理科をやったりということをしていると、授業はいっぱいになるので、1年生から7時間目までの日がある。その後、アフタースクールに行く子どももいるという。
アフタースクールも稲花小学校のウリのひとつである。アフタースクールを華やかに謳う学校も増えたが、稲花のウリは内容云々ではない。「保護者の就労要件は問いません / 人数制限なし」という点だ。つまり、絶対に利用できる、ということ。初年度の数字ではあるが、1年生72名中68名が登録、毎日30人以上の利用があると伺った。それだけ仕事をしている保護者が多い。それに関して副校長先生に直接お話を伺った際、「たとえ6時間に減らして早く子どもを帰したとしても、親の仕事が終わるまで結局ほかの習い事に行ったりすることになる。1時間減らしたところで子どものトータルの疲労は変わらない。7時間を曲げたところでメリットが生み出せない。それよりも、たとえば休み時間を増やすなどして調整していく」とのことであった。ただ、そのためには、8時台、9時までには寝なくてはいけない。家庭がそういうしつけをしっかりすれば、子どもたちは楽しく過ごせているとのお話だった。
♪稲花人気から「私立小学校」を考える
我々もあまりに長く私立小学校とかかわっているために、慣れからつい「常識」、「当たり前」と思い込んでしまっていることがこんなにもあるのかと気づかせてくれたのが、この稲花小学校だ。私立小学校という本当に小さな世界の中で、がんじがらめになって凝り固まっていたのは自分だったのかもしれない。
世界で活躍する科学者の目から見ると、私立小学校は「どうして?」、「なんで?」で溢れているのだろう。「縁故?」、「無駄」。「コネ?」、「無駄」。「手書き願書?」、「無駄」。「写真館で撮った家族写真?」、「無駄」。「受験番号を取りに前日から並ぶ?」、「無駄無駄無駄」…。あまりに潔くきっぱりとした学校側の姿勢に、自分も井の中の蛙の一匹であったと思い知らされる。
そういった学校の姿勢が、若いご両親世代には魅力的に映り、心を掴んだのだろう。なあなあだとか、慣れ合いは一切存在しない。非常に明快、明解、透明度が高い学校だ。
♪入試について
入試は、ペーパー、運動、行動観察。事前にアンケート提出と親子面接あり。
・ペーパー
正直、まだまだ手探り状態。年長さんがどこまでできてどこからできない、そのボーダーが把握できずにいる。そういう場合、2002年度開校の早稲田実業初等学校、2013年度開校の慶應義塾横浜初等部もそうであったが、「むずかしすぎる」はしない。初年度は拍子抜けしそうな簡単な問題で、2020年度は若干難化した。数年かけて「ここまではできる」ラインを見定めた上で徐々に難化すると思われる。夏秋校長先生は「できるだけペーパーレスに」とおっしゃっているが、実力最優先の学校であるので、ペーパー試験がなくなることは現時点では考えにくい。現在の一般的で万遍のない、難易度低めの出題傾向から(ところが、2020年の点図形など、突然猛然とむずかしい課題が入っていたりと、学校の模索ぶりが伺える)、数年を経て洗練されたペーパーにシフトするのではないかと予想する。
・運動
「差がつかない」、「皆さん練習している」と学校側が言っている。初年度よりも2020年度はよりシンプルになったのはそれが理由だろう。やっても時間の無駄なのかもしれない。ただし、「待てない子はだめです」というお話もある。基本的な運動能力とともに、待つ姿勢が重要だ。
・行動観察
重視したいところだろうが、「何をどうする?」というところが学校が掴めていないのが実情。どこかの学校で見たな、という当たり前の繰り返し課題が中心。この先の流動的変化に備え、広く準備をしておきたい。学校側が「どこを見る」という観点が、エビデンスの少なさからまだ確立していない。出過ぎず引き過ぎず、仲良く楽しく、といった王道路線での対応が間違いないであろう。
2020年5月18日 GLE幼・小受験チーム
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