稲花小学校 対 学習院初等科
教育は子どもたちが社会に巣立つときに必要な能力を育むことを目的とする。
小学1年生であれば、16年後に大学を卒業する。であるから、20年後30年後、いや40年後の世界がどの様に変容しているのかを予測し、それに対応できる能力を育むことが必要である。
グルーバリゼーションと情報革命が世界で一体化して起こり、急激に全ての環境が変容する現代、産業革命以来の今回のウエーブによる変化の激しさは、この先どうなるのか予測するのはむずかしい。また、10年に一度の学習指導要領の改訂では、時代の流れに追いつけないのではないかとの懸念がある。2020年の教育改革は成功するのか。「ゆとり教育」等、今までも失敗も多い。
今回は東京都23区内59年ぶりの新設校である稲花小学校と、代表的な伝統校である学習院初等科を事例として比較する。
稲花小学校
4月から稲花小学校保校長を務める夏秋啓子校長は、東京農業大学の副校長でありながら、植物保護科学の世界的な研究者でもある。世界の研究者や学生との関わり合いを通して教育のグローバルスタンダードを理解している。学校説明会で夏秋校長は衝撃的なことを言う。「今の日本の若い人たちにとても欠けていると思われるのが発信力。それぞれの学生、あるいはそれぞれの人はいいものを持っている。しかし、それを発信する力がない。言葉が足りない。語学ができない。それどころか、発信する意欲がない。そもそも発信するものがない。これはとても寂しいこと」。
残念だが、筆者も同意見を持っている。そのことを指摘する外国人識者も多い。例えば、先日精華大学を卒業してスタンフォード大学にて学んだ中国人の女性が拙宅に宿泊した。日本、韓国、中国の若者を連携させて芸術イベントを企画したいと思い、その可能性を探りに日本に来た。その彼女が私に嘆く、「日本の若者はつまらない。英語が全然できないし、何も考えていない!」と。私も、若い中国人、韓国人達と接するにつけ、日本人の英語力の無さ、意欲の無さ、問題意識の無さを感じる。日本の文教政策の成果であろうか。
英語教育
韓国、中国では1990年頃から小学校低学年から英語を導入し、韓国では現在週3コマ英語を学んでいる。英語教育が進んでいる私立の一つである東洋英和は韓国の学校と交流があるが、関係者はその韓国の学校の学生の英語能力には舌を巻いている。日本では英語教育は30年遅れている。また韓国ではIQでなくITリテラシーが必要であるとされている。日本のお家芸の産業も次々韓国に追いつかれ、追い抜かれている。
稲花小における英語教育は小1から毎日(週5回)45分、ネイティブスピーカーが常駐し、色々なアクティビティに参加するので英語に触れる時間が多く、バイリンガル育成の条件を揃えている。これほど英語教育が充実している学校(一条校)は他には玉川学園小学部であろう。
学校運営システム
稲花小では、印刷物の配布は少なく、全てネットでの配信だ。このシステムは先進的で、運営効率を高める。多分全ての管理がネットによりつながり、システム化されているのだろう。実は教育世界一といわれているフィンランドでもペーパーレス化して、全てネット配信だ。効率化して教師の負担を軽減し、指導に集中させる。
アフタースクール
希望に応じてアフタースクールに申し込める。共稼ぎの家庭にとってはありがたいサービスだ。北欧4ヶ国は、全てにおいて女性が男性と同等に活躍して、働く女性を支えるシステムがあり、国の高い生産性を支えている。アフタースクールも働く女性を支えるシステムの一つだ。
学習院初等科
私はかって学習院初等科の国語の先生から、個人的に書簡をいただいたことがある。それは素晴らしい字・文で、家宝にしたいと思ったほどだ。確かに独自の教材等を使用し、丁寧な教育をしていることが伺われる。伝統校の強みだ。
国際化
「日本人としてのアイデンティティーを高めるためには、母国語である日本語の力を伸ばすことが大切だ。初等科では昔から、国語教育に力を入れている。他の教科でも、母国語である日本語を大切にした授業を行っている。また、日本の歴史、日本の伝統、文化を学ぶ必要もある」(酒井 科長談)。また、「英語の学習は今は必要ない」とすら言うときがある。これも日本の文教政策の中における代表的な考え方の一つだ。学習院の英語の学習は3年生になってからで一般公立校と同じで、私立校としては珍しい。同類は桐朋小学校だろう。
情報教育
4年生になると教員が3人、ティームティーチングを組んで、正しい情報の収集の仕方や、情報処理の仕方などを指導している。2年前から、情報の時間にプログラミング教育を取り入れた授業も行っている。この部分では先進的と評価して良いと思う。
蓋を開けてみると、情報教育はどこもどの様にしていいか迷っているようで、特にプログラミング教育については不慣れらしい。「様子見」とする私立が多い。
図書館、礼儀作法
図書館には3万冊の本があり、専任の教員が読み聞かせなど、楽しい読書が身に付くように指導している。
礼儀に厳しく、6年になると、相手の目をしっかりと見て、凛として挨拶ができるようになる。
どの学校を志望するかは各家庭の考え方による。
子どもが社会に向けて羽ばたくとき、どの様な価値観を持ち、どの様なリテラシーが必要であるかを予測することが大切である。必要な人材と子どもの能力のミスマッチが起きないようにすることが大切である。北欧などでも、この点に気をつけて文教政策を行っている。
余談であるが、先日郵便局に行ったら、インド系ネパール人が3名来ていて、預金口座を開きたいという。しかし、若い職員は一切の英語を話さず、日本語オンリーで済ませようとする。らちが明かない。一言助けを出したら、インド人も記入項目の意味が分かり、預金口座開設にすすんだ。グローバリゼーションはもう身の周りまで迫っている。先日デンマークに旅行したが、コペンハーゲンに本社がある世界最大のコンテナ会社には60ヶ国の職員が在籍して、全部英語により運営されている。それが世界の現実だ。
2019年7月23日
Global Leader Education
代表 安藤 徳彰