☆昨年度はどんな問題が出題されたか
・特筆すべき課題
< 回転 >
回転は、小学校受験において最も難易度の高い課題のひとつだ。回転の問題は、数と向きを増やすだけで、最難関課題がいくらでも作れる。よくある問題が、「四角の中の手本の形が、四角形を左に3回、右に2回、左に1回回したらどうなりますか?」というようなもの。ここに△、☆、などの、向きによって形が異なるものが入ると、難易度は飛躍的に膨張する。とくに空間認識が不得意な女子にとって苦手課題の最たるもので、つまり、難関女子校で多くのひねった問題、回転の向きや数を無暗に増やした課題が、これまでに数多く出題されたてきた。最難関の雙葉、白百合に入るには、どうしても回転の理解が必要だった。それが何を意味するのか、学校が何を求めているのかは謎ではある。しかし、「学校はなぜ、回転ができる子どもが欲しいのか?」、それは「他の子どもとの差別化」を意味しているとしか思えない。それだけのために回転が出題される時代が長く続いていた。
今年も回転は頻出課題だ。しかし、昨今では出題の意図が少し異なっていると感じる。今求められている力はトレーニングの積み上げによって獲得したものではなく、回転の本質を理解しているか、応用力があるかという側面であり、出題をどれだけしっかりと聞き、理解して受け止め、どう消化して具体的な行動に移せるか。むずかしくても投げ出さず、最後まであきらめずに努力できる素養があるかということです。いわば、思考力、聞く力、取り組む姿勢、問題解決力、粘り強さ等々、その子どもの総合力が問われるような出題が目立った。ただ課題を難化させるための回転から、子どもの本質を見極めるための回転へと変わってきている。
例を挙げる。昨年(2019年度入試)の雙葉小学校で出題された内側と外側の回転の向き及び回転数の異なるルーレット、そして今回2020年度入試の聖心女子学院初等科で出題された、複数の回転と異なる数の連鎖による回転、さらには、暁星の複数絡み合う歯車の回転の向きの課題。これらは今年の象徴とも言える。かなり時間を掛けて練られたであろう、非常に考えられた出題だ。学校の本気度が伝わってくる。回転の向きや数で難化させるといった単純なものではなく、どちらにどう回るか、いくつ回るか自体を考えさせる、思考の根本を試す問題であった。AIさながらに、トレーニングで蓄積された、教え込まれたことをただ機械的に処理する能力ではなく、自分の頭でしっかり考え、課題と立ち向かって解決する力が求められた。
では、今年はなぜ、このような課題が主流として出題されたのか。いくつかの理由が考えられる。
1)ペーパー易化の下げ止まり
昨年(2019年度入試)の聖心、暁星の問題を見ると、「これらのペーパー難関校がなぜ?」と思うような簡単な問題であった。つまり、差がつかない。聖心は「なぜ、この子?」が入学権を得、暁星は「幼稚舎志望」が多数合格→辞退となり、定員割れになった。これらのペーパー難関校で、かつ難易度の高い課題を課す限り、こういったミスマッチは生まれなかったはずだ。結果、これらの学校が今年、ペーパー易化に歯止めをかけ、思考力を要する、いわば骨のある問題を作ることで「本校第一志望」かつ「実力のしっかりある子ども」を、ターゲットを絞って獲得しようとしたと考えられる。そもそものペーパー難関校はペーパー難関校らしい出題に向かった。
2)トレーニングへの辟易による思考力重視
学校ももちろん、子どもたちが受験塾へ通っていることは十二分に承知している。だからこそ、一部の幼児教室、あるいは特定の指導者に向けては、「こういう教育をしてほしい」、「こういう指導はやめてほしい」、または「こういう家庭、子どもが欲しい」など、かなり詳細に伝えてくれることがある。もちろん、「〇〇先生のご推薦なら(信用して)お預かりします」ということもあるかもしれない。だからこそ、学校から信頼を得た上で正確な情報に基づいて指導する幼児教室や教師は、特定の学校への入学実績が抜群に高くなる。
そうして学校側から漏れ聞こえてくることとは何か。それは、兎にも角にも「トレーニングされた子どもは欲しくない」という趣旨だ。かといって、「はい、そうですか」と幼児教室側がトレーニングを止める訳はない。利益最優先の営利企業である。そうなると、学校側が出題に工夫を凝らすしかない。トレーニングでは歯が立たない、自分の頭で考える問題を出題せざるを得ない。回転の例で言えば、回転の数や向きをいくら増やしたところで、これはトレーニングの賜物で乗り越えられる。そこで、今年のような思考能力を問う出題になった。
3)面接の重視
ペーパー易化傾向の後、行動観察重視の時代が続いたと言われるが、ここに来てかなり曲がり角だ。幼児教室による受験生の画一化があまりにも極端に進み、それはペーパーのみならず行動観察にまで完全に波及したからだ。「(学校)じゃあ、みんなで相談してね」、「(子ども)どうする?」、「私はこう思うけど、あなたはどう?」、「うん、いいよ」。全員が全く同じ、幼児教室で教え込まれた決まり台詞を口にするだけとなり、本来の行動観察としての意味がなくなった。学校が場面設定を工夫して変えたところで、子どもの口から出る言葉は同じ。「私はこう思うけど、あなたはどう?」、「うん、いいよ」だらけ。ペーパーの均質化が進んだから行動観察を重視したはずなのに、これでは差別化できない。もっと言えば、こんなに均質に教え込まれた言葉しか発さない子どもは一人も要らないというのが学校側の本音であろう。
そこで、近年面接が重視されることとなった。しかも、非常に突発的な事態が起こることを工夫し、その中で家族全員がどのように行動するか、どんな表情を見せるか、どんな関係性が露呈するのか。そのあたりが、合否を分ける最新のポイントとなっているのは間違いがない。この傾向は今後も続くと思われる。願書も含め、面接対策のウェイトはますます大きくなるだろう。
2020年1月9日
Global Leader Education
主宰者 安藤 徳彰